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最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)134号 判決

上告人 右京税務署長

代理人 増井和男 小貫芳信 脇博人 森山幸二 赤西芳文 白石研二 小野木等 亀井幸弘 ほか三名

被上告人 金勝弘

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤和夫、同寳金敏明、同脇博人、同村川広視、同赤西芳文、同髙山浩平、同小野木等、同金政真人、同西教弘、同久保日出夫の上告理由第一点について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、白色申告に係るサラリーマン金融業を営んでおり、昭和五三年分ないし同五五年分の所得税に係る確定申告をそれぞれ法定申告期限内に行った。右各確定申告書に記載された総所得金額(事業所得金額)は、昭和五三年分が一三五六万〇八三八円、同五四年分が一七八五万六三〇〇円、同五五年分が三五〇〇万円であった。

2  ところが、被上告人は、昭和五三年分について同五四年六月二五日に第一次修正申告をしたのを始めとして、同五四年分及び同五五年分について同五六年六月二三日に第一次修正申告を、同五三年ないし同五五年の三年分について同五六年七月七日に第二次修正申告をし、さらに、同五五年分について同五七年一月一四日に第三次修正申告を、同五三年分及び同五四年分について同五七年三月八日に第三次、同五五年分について同日第四次の修正申告をした。その結果、最終修正申告に係る総所得金額は、昭和五三年分が四億二〇〇六万五五二八円、同五四年分が五億七六二四万七〇一一円、同五五年分が一〇億〇四三九万三〇一六円となった。このため、上告人は、昭和五七年三月一〇日、被上告人に対し、同五三年ないし同五五年(以下「本件係争各年」という)分の増差税額に係る各重加算税の賦課決定をした。

3  被上告人は、本件係争各年における営業につき正しい会計帳簿類を作成記載しており、取引記録及び貸付金・利息の入手金を集計した記録も揃えていた。

4  被上告人に対する本件係争各年分の所得税に関する税務調査が昭和五六年六、七月ころ行われ、被上告人は、そのころ、上告人に対し、同五四年分及び同五五年分の各店舗ごとの融資額、貸付残額、利息収入、貸倒金及び資産額等の一覧表並びに経費一覧表(以下、これらを「本件資料」という)を提出したが、本件資料には真実よりも少ない店舗数が記載されていた。本件資料に基づいて算出される昭和五四年分の総所得金額は六二二八万九二六一円の損失となる。上告人の部下職員は、反面調査をすることなく、本件係争各年分の修正申告を慫慂し、このため、被上告人がその後昭和五六年七月七日にした修正申告に係る総所得金額は、昭和五三年分が四一九四万七七三五円、同五四年分が四七一四万三〇〇〇円、同五五年分が一億一九一〇万五〇〇〇円にとどまった。

5  被上告人は所得税法違反事件で起訴され、被上告人の会計帳簿類は、国税局査察部等による押収、検討の後、還付され、その後被上告人によって廃棄された。

二  原審は、右事実関係の下において、次のような理由により、被上告人が各確定申告及び各修正申告において過少な総所得金額を申告した行為は、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの、以下同じ)六八条一項に定める要件を満たすものとはいえず、本件各重加算税賦課決定は違法であると判断した。すなわち、正しい総所得金額と申告額との差が大きいことのみによっては殊更の過少申告ということはできないところ、被上告人は、正しい会計帳簿類を作成しており、会計帳簿類を廃棄したのは、上告人において被上告人の本件各係争年度の収入・支出額を把握したと被上告人が推測できた後であることなどからすると、被上告人が過少な総所得金額を申告した行為が殊更の過少申告であるということもできず、さらに、右過少申告が、隠ぺい、仮装の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠もない。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

原審の確定した前記事実関係によれば、被上告人は、会計帳簿類や取引記録等により自らの事業規模を正確に把握していたものと認められるにもかかわらず、確定申告において、三年間にわたり最終申告に係る総所得金額の約三パーセントにすぎない額(差額で約四億円ないし九億七〇〇〇万円少ない額)のみを申告したばかりでなく、その後二回ないし三回にわたる修正申告を経た後、初めて飛躍的に多額の最終申告をするに至っているのである。しかも、確定申告後の税務調査に際して、真実よりも少ない店舗数を記載した本件資料を税務署の担当職員に提出しているが、それによって昭和五四年分の総所得金額を計算すると、損失しか算出されない結果となり、本件資料の内容は虚偽のものであるといわざるを得ない。その後右職員の慫慂に応じて修正申告をしたけれども、その申告においても、右職員から修正を求められた範囲を超えることなく、最終修正申告に係る総所得金額の約一〇ないし一五パーセントにとどまる金額(差額で約三億七八〇〇万円ないし八億八五〇〇万円少ない額)を申告しているにすぎない。

右のとおり、被上告人は、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類を作成していながら、三年間にわたり極めてわずかな所得金額のみを作為的に記載した申告書を提出し続け、しかも、その後の税務調査に際しても過少の店舗数を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしているのであって、申告当初から、真実の所得金額を隠ぺいする意図を有していたことはもちろん、税務調査があれば、更に隠ぺいのための具体的工作を行うことをも予定していたことも明らかといわざるを得ない。以上のような事情からすると、被上告人は、単に真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、本件各確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務付ける税法上の規定がなく、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定しつつ、前記会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。したがって、本件各確定申告は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、国税通則法六八条一項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるというべきである(最高裁昭和四六年(あ)第一九〇一号同四八年三月二〇日第三小法廷判決・刑集二七巻二号一三八頁参照)。

そうすると、これと異なり、本件各申告行為が殊更の過少申告に当たらず、国税通則法六八条一項に定める要件を満たさないとした原判決には、同条項の解釈適用を誤った違法があるものといわなければならず、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した前記事実関係の下においては、被上告人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきであって、これと結論を同じくする第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴は棄却すべきものである。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 可部恒雄 園部逸夫 大野正男 千種秀夫 尾崎行信)

上告理由

上告人は、上告の理由を以下のとおり明らかにする。

原判決は、上告人が昭和五七年三月一〇日付けで被上告人に対して行った昭和五三年分ないし同五五年分の所得税に関する各重加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)のうち、いずれも過少申告加算税額相当部分を超える部分を取り消したが、原判決には、以下に述べるとおり、理由不備があるほか、国税通則法(以下「通則法」という。)六八条一項(昭和六二年法律九六号による改正前のもの。以下同じ。)の解釈適用の誤り、経験則違背及び審理不尽の各違法があり、かつ、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第一点 原判決は、被上告人が行った昭和五三年分から同五五年分の所得税に関する各納税申告(以下「本件各納税申告」という。)について「隠ぺい」・「仮装」の行為によるものとは認められないとしているが、この点には、理由不備があるのみならず、通則法六八条一項所定の「隠ぺい」・「仮装」の各意義についての解釈・適用を誤った違法があり、かつ、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一1 通則法六八条一項の重加算税(過少申告加算税に代えて課する重加算税)

(一) 申告納税方式による国税は納税義務者の自発的意思に基づき納税することとされているが、重加算税制度の設けられた趣旨・目的は、納付すべき税額の計算の基礎となる事実について隠ぺい又は仮装という不正手段がとられたときは、特別の行政制裁を課すことによって、適正な申告をした納税者とそうでない納税者との間の権衡を図ることにある。すなわち、通則法六八条一項の重加算税は、同法六五条所定の過少申告加算税を課すべき納税義務違反が本税の課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装する方法によって行われた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せられるもので、これによってかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もって徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であって、刑罰とは趣旨・目的を異にしており、納税者が隠ぺい又は仮装の行為をしたことによって税務調査を困難にし多大な労力と経費を国家に費やさせたことの補償をさせることも意味し、国庫利益の侵害に対する損害賠償請求的性格を併せ持つものと解するのが相当である(最高裁昭和四五年九月一一日第二小法廷判決・刑集二四巻一〇号一三三三ページ参照)。

(二) このような重加算税制度の趣旨・目的に照らすと、事実の「隠ぺい」又は「仮装」の行為とは、右の不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味するのであり、事実を「隠ぺい」するとは事実を隠匿しあるいは脱漏することをいい、事実を「仮装」するとは、所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいうと解される。前者の典型例としては、二重帳簿の作成、売上等収入の除外、架空仕入ないし架空経費の計上、棚卸資産の一部除外等が、後者の典型例としては、証拠書類の改ざん、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等が挙げられる。

2 いわゆる「つまみ申告」の通則法六八条一項該当性

(一) ところで、納税者において、正確に記帳された会計帳簿に基づく真実の所得金額とは異なることを知りながら、所得金額又は収入の一部をつまみ出し(経費の水増しによる所得金額のつまみを含む。以下「つまみ行為」という。)、ことさら過少に記載した納税申告書を提出する行為(以下「つまみ申告」という。)がなされることがあるが、右「つまみ申告」は、通則法六八条一項所定の「隠ぺい」又は「仮装」に基づく納税申告として重加算税賦課の対象になり得ると解すべきである。

すなわち、通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」とは、課税標準・税額等の計算要素となり得る一切の事実を指すのであるが、税額が「(所得金額-所得控除額)×税率」の算式で求められることに照らすと、「つまみ行為」の対象である所得金額自体も「税額等の計算の基礎となるべき事実」に該当すると解することができるところ、「つまみ行為」は、会計帳簿の存在や同帳簿記載の事実を全く無視し、その中からあえて一部の収入ないし所得を抽出し、他を隠ぺいする行為であるから、「税額等の計算の基礎となるべき事実」の確認を妨げる結果となる行為と評価することができる。そして、「つまみ申告」は、「つまみ行為」を基礎として納税申告書にことさら過少な内容虚偽の所得金額等を記入するものであるから、その結果提出された申告書には、「つまみ行為」によって隠ぺいされたところの会計帳簿とは異なる事実が「税額等の計算の基礎となる事実」として反映されていると解することができる。

してみると、「つまみ申告」は、それと認識しつつ所得の一部のみを抽出し、他を隠ぺいして過少な申告をする点で、過失による過少申告の場合とは異なり、納税者に対する信頼に基礎を置く納税申告制度の趣旨を踏みにじり、不正手段により租税徴収権を侵害する行為であるから、申告納税制度の基盤が失われるのを防止しようとする重加算税の目的(金子宏・租税法第四版四六六ページ参照)にかんがみ、重加算税賦課の対象とするに価する行為ということができる。

(二) 「つまみ申告」が、通則法六八条一項所定の「隠ぺい」・「仮装」に基づく納税申告として重加算税賦課の対象になることは、次のとおり、最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決(税務訴訟資料九一号五四ページ)の是認するところといい得るのであり、また、下級審裁判所の裁判例中にも、これを積極に解釈するものがあり、さらに、課税実務においても、右最高裁判決を始めとする判例法理を根拠として、「つまみ申告」に重加算税を賦課する運用がされてきたところである。

(1) 最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決について

この判決は、「確定申告に際し、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得金額をことさら過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にして、その不足税額を免れる偽りの不正行為、いわゆる過少申告をなしたものであることは、………国税である所得税の税額計算の基礎となる所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき、納税申告書を提出したことに該当する。」旨判示した福岡高等裁判所昭和五一年六月三〇日判決(行裁例集二七巻九号九七五ページ)に対し、納税者側が、「原判決の見解によれば、過少申告の場合には、原則として、重加算税が賦課されることになり、過少申告加算税の賦課される場合はほとんど考えられないことになる。右見解は過少申告の場合に過少申告加算税が原則として賦課され、特に悪質な場合に限り重加算税を賦課する旨の加算税全体の立法趣旨と、法文の形式に反するものである。」と主張して、通則法六八条一項の解釈適用に誤りがあるとして上告した事件につき、「論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない」として右上告を退けたものであって、反対説に立つ論旨を結論において独自の見解として排斥する旨の判断を示すにとどまったものではあるが、福岡高裁の前記判断を是認したものということができよう。

(2) 前掲最高裁判決後の裁判例について

前記(1)の最高裁判決後の裁判例も、以下のとおり、おおむね「つまみ申告」の通則法六八条一項該当性を肯定しているといえよう。

ア まず、最高裁判所の判例としては、「不動産の譲渡益が生じていることを知っていながらこれを申告しないのは通則法六八条二項の課税標準等の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことに該当する」とした一、二審判決を前掲最高裁判決と同じく是認した最高裁判所昭和六三年一〇月二七日第一小法廷判決(税務訴訟資料一六六号三七〇ページ[一審釧路地裁昭和六一年五月六日判決・税務訴訟資料一五二号一三七ページ、二審札幌高裁昭和六三年四月二五日判決・税務訴訟資料一六四号二五三ページ])がある。

イ 次に、下級審裁判所の裁判例としては、「納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得金額をことさらに過少にした内容虚偽の申告書を提出した場合は、右事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したものと解すべきである。」とした東京地方裁判所平成二年一〇月五日判決(判例時報一三六四号三ページ)、売上の一部を除外した内容の確定申告をしたことが所得金額の一部の「隠ぺい」に当たるとした盛岡地方裁判所平成五年三月二六日判決(公刊物未登載)、税理士の資料要求にも応じないで、株式等の売買による所得を秘匿した確定申告書を税理士に作成・提出させた行為が「隠ぺい」・「仮装」の行為に当たるとした神戸地方裁判所平成五年三月二九日判決(公刊物未登載)がある。

ウ また、課税実務も、前掲最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決を主な根拠としてつまみ申告にも重加算税を賦課する方向で運用されており、国税不服審判所の裁決例も同様の傾向にある(公刊されたものとして国税不服審判所平成元年一月三一日裁決・裁決事例集No.三七の一六ページ、同平成三年三月二九日裁決・裁決事例集No.四一の一五ページ)。

二 原判決の理由不備、法令違背

1 原判決の理由不備

前記一に詳述したとおり、「つまみ申告」は、通則法六八条一項所定の「隠ぺい」又は「仮装」に基づく納税申告として重加算税の対象となり、前掲最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決を始めとする判例法理において是認され、課税実務もこれに従っているところである。

しかるに、原判決は、「つまみ申告」(これを、原判決は「ことさらの過少申告」と表現している。)が、通則法六八条一項の要件を充足することを前提とする判示をしながら、その要件を明示することなく、本件においては、被上告人が本件各係争年分の営業につき正常な会計帳簿を作成していたこと、昭和五六年六、七月ころの税務調査における上告人所部の職員紀平泰久(以下「紀平」という。)らの調査にごく普通に協力したこと、被上告人は上告人に対し同じころ内容虚偽の資料(〈証拠略〉。以下「本件資料」という。)を提出したが、右資料中には昭和五三年分の資料及び同五四年分の収入を記載した資料部分が欠けている上、本件資料に基づいて計算した所得金額と昭和五六年六月二三日及び同年七月七日の各修正申告の所得金額との間には直接の関連性がないこと、被上告人が会計帳簿を破棄したのは上告人側において被上告人の本件各係争年分の収入・支出の数額を把握したと同人が推測できた後であること等の事実を認定して、被上告人が本件各納税申告において過少申告した行為が「ことさらの過少申告」ということはできないし、右過少申告が「隠ぺい」・「仮装」の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠もない旨判示している(原判決五丁表四行目から七丁表七行目まで)。

すなわち、原判決は、「ことさらの過少申告」ないし「つまみ申告」が通則法六八条一項の要件を充足するとの上告人の主張を受けて、「いわゆる『つまみ申告』の中でも、正しい総所得金額と申告者の申告額との較差がどの程度に大きい場合に可罰的違法性が大となるのかの基準は明らかではなく、また、重加算税の主観的要件としては申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることは不要であり、申告者が錯誤等による書き誤りによって右較差が大きくなる場合もあり得るから、右較差のみによって『ことさらの過少申告』の行為に該当するということはできず、その他に申告者の過少申告に至った経緯等の事情を総合判断して、その該当性を判断すべきである。」(原判決四丁表九行目から同裏九行目まで)と判示し、「ことさらの過少申告」が通則法六八条一項に該当することを肯認しながら、いわゆる総合判断の名の下に、前記のとおり被上告人が本件各納税申告において過少申告した行為が「ことさらの過少申告」に該当しないとの判示をしているが、右判示では、いかなる要件を充足すれば「ことさらの過少申告」として通則法六八条一項に該当することになるのか、あるいは、どの要件が欠缺するため、通則法六八条一項の要件該当性が否定されるのか、全く不明というほかない。

また、前示のとおり、原判決は、被上告人が本件各納税申告において過少申告した行為が「ことさらの過少申告」に該当しないとし、右過少申告行為が「隠ぺい」・「仮装」の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠もないと判示するのみで、右過少申告行為の前提をなす「つまみ行為」が、会計帳簿の存在や同帳簿記載の事実を無視し、その中からあえて一部の収入ないし所得を抽出し、他を隠ぺいする行為であり、「つまみ行為」を基礎として納税申告書にことさら内容虚偽の所得金額等を記入してこれを提出する「つまみ申告」が通則法六八条一項所定の重加算税賦課の対象となり得ることについて何らの判断も示していない。

以上のとおり、原判決は、「つまみ申告」ないし「ことさらの過少申告」が通則法六八条一項に該当することを前提とする判示をしながら、被上告人の本件各納税申告において過少申告した行為が「ことさらの過少申告」に該当しないとの結論のみを判示したに等しく、右過少申告行為が「ことさらの過少申告」に該当しないとする理由ないし同行為が「隠ぺい」・「仮装」の行為に基づくものでないとする理由を何ら示すところがないものというべきであるから、原判決には理由不備があることは明らかである。

2 被上告人が本件各納税申告に際して行った行為の評価

(一) 原判決が適法に認定した事実によれば、〈1〉被上告人は、昭和五五年分には一〇億四三九万三〇一六円の総所得(最終の修正申告である昭和五七年三月八日の修正申告に係る所得金額)がありながら、確定申告に際しては、その三・五パーセントにすぎない三五〇〇万円のみを納税申告しており、正しい総所得金額と確定申告の申告額との較差が係争各年分とも極めて大きい(同様の割合は、昭和五三年分が三・二パーセントであり、同五四年分が三・一パーセントである。)、〈2〉被上告人は、各年分の営業につき正常な会計帳簿類を作成していた、〈3〉被上告人は、確定申告後の税務調査に際し、(右〈2〉の会計帳簿類の存在を告げることなく、かえって)内容が虚偽の収入金額及び経費等を記載した本件資料を提出するなどした、〈4〉上告人は、本件資料に基づいて被上告人の所得等を検討し、その後被上告人に修正申告をしょうようし、同人がこれに応じて修正申告をしたが、その金額は、最終の修正申告である昭和五七年三月八日の修正申告に係る所得金額に比し、昭和五五年分が一一・九パーセントにすぎない一億一九一〇万五〇〇〇円であった(同様の割合は、昭和五三年分が一〇・〇パーセントであり、同五四年分が一四・六パーセントである。―原判決三丁裏三行目の引用する一審判決三ページ三ないし五行目、同判決別表甲1、原判決五丁裏一行目から六丁表五行目まで)。

(二) 右事実によれば、被上告人は、自己の所得ないし収入ひいてはこれによって導かれる自己の納付すべき税額を会計帳簿類によって正確に認識していながら、その所得ないし収入のうち、大部分を故意に秘匿して、ごく一部のみをつまみ出し、これに基づいて本件各納税申告をしたことが明白である。

なお、「つまみ行為」は、納税申告書に収入の一部を故意に間引いた収入内訳書を添付するなどした場合には目に見える形で現れるが、それを机上で行った後に申告書本紙のみを提出した場合には目に見える形では現れないことから、その存在は、真に納付すべき税額と申告所得額の較差や納税申告前の諸事情はもちろん、納税申告後の諸事情(税務調査に対する虚偽答弁や虚偽資料の作成・提出、帳簿書類の隠匿・廃棄等)をも総合して認定判断すべきものである。

これを本件についてみると、被上告人は、例えば、前記(一)のとおり、昭和五五年分については所得の九六・五パーセントに当たる九億六九三九万円余りの所得を除外した確定申告書を提出した後に、売上げの大部分を除外した本件資料を提出するなどして租税負担の回避を企てていることからも、被上告人の本件各納税申告が「つまみ行為」に基づくものであることは明らかであるといえる。

(三) 以上のとおり、被上告人が本件各納税申告においてした「つまみ行為」は、会計帳簿の存在や同帳簿記載の事実を無視し、その中からあえて一部の所得を抽出し、他を隠ぺいする行為であるから、これを「税額等の計算の基礎となるべき事実」の確認を妨げる結果となる行為と評価することができ、本件「つまみ行為」に基づき、被上告人がした本件各納税申告は「つまみ申告」行為として通則法六八条一項所定の重加算税賦課の対象になり得るものと解すべきである。

よって、前記1のとおり、「つまみ申告」ないし「ことさらの過少申告」が通則法六八条一項に該当することを前提として肯認しながら、いかなる要件が不足するかも明示することなく、被上告人の本件各納税申告が「ことさらの過少申告」に当たらないとした原判決には、通則法六八条一項の解釈適用を誤った違法があり、かつ、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第二点 仮に、「つまみ申告」ないし「ことさらの過少申告」のみでは通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を充足しないとしても、原判決は、被上告人が行った各修正申告について、「隠ぺい」又は「仮装」の行為の有無を検討し、本件資料に基づいて右各修正申告書が提出されたということはできない旨判示して因果関係を否定しているが、昭和五四年分及び同五五年分についてまで因果関係を否定した点には、通則法六八条一項の解釈適用の誤り、経験則違背及び審理不尽の各違法があり、かつ、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一 原判決の論理構成

原判決は、「修正申告(昭和五七年七月七日付)が本件資料に基づいてなされた場合、本件資料は、虚偽の内容の記載が含まれる文書であるから、通則法六八条一項の『納税申告書』に右修正申告書も含まれると解すると、重加算税の賦課要件が充足される可能性はある。」(原判決七丁裏四ないし七行目)と正しい認識を示しながら、本件資料によると、昭和五四年分の所得金額は六二二八万九二六一円の損失となり、右金額は、被上告人の昭和五六年六月二三日付けの修正申告における所得金額五七八八万円とも同年七月七日付けの修正申告における所得金額八三八九万八〇〇〇円とも一致せず、本件資料と右各修正申告の記載内容とは直接の関連性がないこと、各確定申告書及び右各修正申告書の収入金額の間には相互に三〇〇万円以上の金額差があること並びに右京税務署職員であった紀平が本件資料に基づいて被上告人の収入・支出を検討した結果不相当と認めて除外あるいは加算した金額と右各修正申告書のいずれかの総所得額とのつながり及び紀平がしょうようした金額の算出過程について上告人の主張立証がないことを理由に、被上告人が本件資料に基づいて各修正申告書を提出したということはできないとしている(原判決六丁表一行目から同裏五行目まで、同七丁裏八行目から八丁裏一行目まで)。

二 原判決の法令解釈適用の誤り

原判決は、前記一のとおり、「隠ぺい」・「仮装」の行為と納税申告書の提出との間の因果関係の判断に当たり、本件資料により算出される所得金額と修正申告の所得金額との金額的な一致や紀平がしょうようした金額の算出過程など詳細な金額の一致を問題にしている。しかし、右因果関係の判断においてそこまで詳細な一致を要求するのは誤りであって、以下に述べるとおり、原判決が認定した事実のみによって、あるいはこれと原審が適法に取り調べた証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実を総合することによって、優に右因果関係を肯定し得るのであり、原判決には通則法六八条一項の解釈適用の誤り、経験則違背及び審理不尽の各違法があり、かつ、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

1 修正申告書が通則法六八条一項の「納税申告書」に該当することについて

この点につき、原判決は仮定的な判断しか示していないが、通則法六八条一項にいう「納税申告書」とは、申告納税方式による国税に関し、国税に関する法律の規定により、課税標準等及び税額等の事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書をいい、国税に関する法律の規定による国税の還付金の還付を受けるための申告書でこれらのいずれかの事項を記載したものを含むものであって(通則法二条六号)、修正申告書(通則法一九条三項)も「納税申告書」に該当する。また、修正申告は期限内申告と同様に、納税義務を負う税額を確定させる行為であるから、重加算税の賦課において右両申告書間に差異を設けることには、前述の重加算税制度の趣旨・目的に照らして、何ら合理性が認められない。さらに、立法の沿革に照らしてみても、通則法の施行に伴い削除される前の相続税法五四条一項では、同趣旨の重加算税が規定されていたところ、通則法六八条一項で用いられている「納税申告書」という文言の代わりに「期間内申告書又は修正申告書」という文言が用いられていたのであり、同じく削除前の旧所得税法五七条一項、旧法人税法四三条の二第一項にも同様の規定があったのであり、これらの規定は、通則法の制定に際して右各旧法の取扱いを変更した事情もないのである(昭和三六年七月「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」二〇ページ以下、「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)及びその説明」一〇二ページ以下)。

以上によれば、通則法六八条一項の「納税申告書」に修正申告書が含まれることは明らかである。

2 本件資料の提出行為と昭和五四年分及び同五五年分に関する同五六年六月二三日付けの各修正申告との間の因果関係

(一) 原判決は、「本件資料により昭和五四年分の所得金額を計算すると、六二二八万九二六一円の損失となり、これは、被上告人の昭和五六年六月二三日の修正申告における所得金額五七八八万円(中略)とは直接の関連性がない。」(原判決六丁裏一行目から五行目まで)と判示しており、本件資料に基づく右計算は、後記(三)のとおり、本件資料により算出される昭和五四年分の所得金額五七九九万三一七二円(貸倒損失控除前のもの)から更に本件資料に基づき貸倒金一億二〇二八万三四三三円を控除したものと推測されるところ、本件資料による右貸倒損失控除前の算出所得五七九九万三一七二円と昭和五四年分(同五五年分の関係については後記(三)(1)参照)に係る昭和五六年六月二三日付けの各修正申告書記載の所得金額五七八八万円とはほぼ一致しているのであるから、本件資料の作成・提出と右修正申告との間には優に因果関係が肯認されるべきであるのに、原判決は、この点を看過し、右貸倒損失控除後の所得と右修正申告書記載の数値とが一致しなければならないとの誤った見解を採ることによって通則法六八条一項の解釈適用を誤ったものというべきである。

(二) 右に述べたとおり、原判決は、虚偽資料の作成・提出と修正申告書の提出との間に因果関係があるというためには、双方記載の所得金額の間に厳密な数値の一致があることを要すると解しているようであるが、右は通則法六八条一項所定の重加算税賦課要件についての誤解に基づくものというほかない。

すなわち、同条項は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部」について、隠ぺい又は仮装を行うことを重加算税賦課の要件としているのであるから、虚偽資料と納税申告との間の数値の一致は、収入又は必要経費算定の基礎事実の一部について存在すれば足りるのである。したがって、例えば、納税者が収入の一部を除外しかつ経費を水増しした虚偽資料を提出したところ、課税庁が、経費の水増しは見破ったものの、収入の一部除外を看過して税務調査を終え、経費の水増分を是正した修正申告をしょうようした結果、その趣旨に沿った修正申告が納税者において行われたという事例においては、虚偽資料の記載から導かれる所得金額と修正申告書に記載された所得金額との間に較差を生じることになるが、かかる納税者の行為が重加算税賦課の対象となることは疑いないところである。

本件においては、昭和五四年分の所得金額について納税者が収入及び経費の大部分を除外しかつ虚偽の貸倒損失を記載した虚偽資料を作成・提出した上、右貸倒損失部分を除いた算出所得金額をもって修正申告をしているのであるから、右行為は優に重加算税賦課の要件を充足しているといえるのである。

(三) 原判決は、右(一)(二)に指摘した通則法六八条一項についての解釈上の誤りを犯したために、以下に述べるとおり、原審において適法に取り調べられた証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件資料に基づく貸倒損失控除前の所得金額と昭和五四年分及び同五五年分に関する同五六年六月二三日付けの各修正申告書記載の所得金額はほぼ一致するのに、その点についての判断を行わず、審理不尽に陥っているのである。

(1) 昭和五五年分について

本件資料により昭和五五年分の所得金額を計算すると、収入金額は、四億七三八一万四〇〇〇円(〈証拠略〉の利息収入金額の合計額)、必要経費は三億七八八〇万六六一五円(〈証拠略〉の必要経費合計額)となり、右収入金額から必要経費を差し引くと、算出所得金額は、九五〇〇万七三八五円となる。この金額は、被上告人が提出した、昭和五五年分所得に関する昭和五六年六月二三日付け修正申告書の営業所得金額九五〇〇万円にほぼ一致している(〈証拠略〉の昭和五五年分の所得税の修正申告書における〈A〉修正前の課税額「営業欄〈1〉」の金額九五〇〇万円は、昭和五六年七月七日付け修正申告の前の修正申告額、すなわち、同年六月二三日付け修正申告の所得額を意味することに照らして明らかである。)。

(2) 昭和五四年分について

本件資料により昭和五四年分の所得金額を計算すると、収入金額は、三億四五三六万七〇〇〇円(〈証拠略〉の利息収入金額の合計額)、必要経費は二億八七三七万三八二八円(〈証拠略〉の必要経費合計額)となり、右収入金額から必要経費を差し引くと、算出所得金額は、五七九九万三一七二円となる。この金額は、被上告人が提出した、昭和五四年分の所得に関する昭和五六年六月二三日付け修正申告書の営業所得金額五七八八万円にほぼ一致しているのである(〈証拠略〉の昭和五四年分の所得税の修正申告書における〈A〉修正前の課税額「営業欄〈1〉」の金額五七八八万円は、昭和五六年七月七日付け修正申告の前の修正申告額、すなわち、同年六月二三日付け修正申告の額を意味することに照らして明らかである。)。

(3) 本件資料が、被上告人の従業員次田洋二に対する質問てん末書である〈証拠略〉に対する答弁(本件資料のうち経費一覧表は昭和五六年五、六月ころに作成した旨答弁)及び前記(一)(二)のとおり昭和五六年六月二三日付けの各修正申告と金額がほぼ一致していることに照らすと、本件資料は、昭和五六年五、六月ころ作成されたものというべきである。

(四) 以上によれば、本件資料は、昭和五六年六月二三日付けの各修正申告前に作成され、右資料に基づき算出される算出所得金額と右各修正申告の営業所得金額がほぼ一致しているのであるから、右各修正申告に係る申告書の提出は、本件資料(収入・支出についての虚偽資料)の作成という「隠ぺい」・「仮装」の行為に基づき提出されたものというべきである。

3 本件資料の提出行為と昭和五四年分及び同五五年分に関する同五六年七月七日付けの各修正申告との間の因果関係

仮に、本件資料の提出が昭和五六年六月二三日付けの各修正申告後であり、右各修正申告に対する関係で重加算税の要件を充足しないとしても、本件資料の提出行為は、昭和五四年分及び同五五年分に関する同五六年七月七日付け各修正申告との関係で「隠ぺい」又は「仮装」行為に該当するというべきである。

(一)(1) 原判決は、「上告人の担当職員は、本件資料に基づき、被上告人の収入・支出を検討したが、その収入については、貸付残高に対する利息収入の割合が妥当であると判断し、経費については、減価償却等に誤りがあると判断した。そして、上告人は、本件資料について反面調査をしたことはなく、被上告人は、上告人がしょうようした金額に基づいて修正申告をした。」(原判決六丁表一ないし五行目)と認定しており、さらに、原判決は本件資料のほかに修正申告をしょうようする契機のあったことを認定していないこと、昭和五四年分の営業所得金額については、昭和五六年六月二三日付け修正申告は五七八八万円であるのに対し、本件資料によると六二二八万九二六一円の損失としている(原判決六丁裏一ないし二行目)が、両金額は、それぞれ真実の総所得額五億七六二四万七〇一一円に比して、いずれにせよ較差が著しく大きいこと(他の年分についても同様のことがいえる。―原判決三丁裏三行目の引用する一審判決の別表甲1参照)を総合すると、提出された本件資料によって真実の収入及び経費の額につき錯誤に陥った紀平が、被上告人に対し、本件資料記載の経費の金額に一定の修正を加えて修正申告をしょうようしたため、被上告人が右しょうように応じて昭和五六年七月七日付け各修正申告を行ったことがうかがわれるのであるから、本件資料の提出と右各修正申告との間には因果関係があったことを優に肯認することができ、したがって、昭和五六年七月七日付け各修正申告は内容虚偽の本件資料に基づき行われたものというべきである。

(2) この点につき、原判決は、虚偽資料の作成・提出と修正申告書の提出との間に因果関係があるというためには、双方記載の所得金額の間に厳密な数値の一致があることを要すると解しているようであるが、右は通則法六八条一項所定の重加算税賦課要件についての誤解に基づくものであることについては、既に前記2(二)において指摘したとおりである。

のみならず、そもそも、本件のようないわゆる白色申告にあっては、昭和五九年改正(所得税法二三一条の二、同三の追加)前には、記帳義務はおろか記録・書類の保存義務すら認められていなかったことから、納税者において納税申告書記載の所得金額と厳密に一致する資料を保持していることはもともと予定されていなかったというべきであり、また、通則法六八条一項が、「隠ぺい」・「仮装」に基づく税額と「隠ぺい」・「仮装」されていないものに基づくことが明らかである税額とに分けていることからすると(「隠ぺい」・「仮装」されていないものに基づくことが明らかであるとはいえないものについては重加算税を賦課してもよいとの趣旨である。)、虚偽資料に現れた数額と修正申告の数額との間に厳密な因果関係を要するとの見解は、同条項の明文及び趣旨に反するというべきである。

(二) さらに、原審において適法に取り調べられた証拠及び弁論の全趣旨に照らすと、原判決認定の(一)(1)の事実のほかに以下の各点が明らかである。

(1) 前記2(一)(二)のとおり、本件資料を基に計算した算出所得金額は、昭和五四、五五年分とも昭和五六年六月二三日付けの修正申告の金額とほぼ一致している。

(2) 税務調査の時期及び本件資料の提出時期は、いずれも昭和五六年六、七月ころとされ、紀平は本件資料に基づいて被上告人の収入・支出を検討し、その後に被上告人に修正申告をしょうようしているのであるから(原判決五丁裏五行目から六丁表五行目まで)、本件資料は、少なくとも昭和五六年七月七日付けの各修正申告以前に作成され、上告人の被上告人に対する所得税の調査中に提出されたものというべきである。

(3) 課税実務においては、被上告人のようなサラリーマン金融業者の貸付元本等の把握については、貸付先の把握が困難な業種であるため会計帳簿等の資料あるいは本人の供述等により貸付先が明らかにならない限り反面調査も困難であることから、収入・経費について貸付先を明らかにしない資料でも、その提出があれば、課税職員としてはこれらを信ずるのが通常であって、提出された資料以外から事実関係を把握することが極めて困難であることは経験則上明らかである。

(三) 以上の各点と原判決の認定した前記(一)(1)の事実とを総合すれば、被上告人は、昭和五六年七月七日以前に本件資料を作成・提出し、紀平は、本件資料が提出されたことにより、被上告人の収入・経費の金額について錯誤に陥り、本件資料に基づいてこれを一部修正した上、被上告人に対して修正申告をしょうようし、その結果同年七月七日付けの各修正申告がなされたものといい得るのであるから、本件資料の作成・提出と右修正申告との間には優に因果関係を肯認し得るものというべきである。

4 まとめ

以上により、昭和五四年分及び同五五年分に関し、本件資料の作成・提出と昭和五六年六月二三日付けの各修正申告あるいは昭和五六年七月七日付けの各修正申告との間の因果関係を否定して、本件各処分のうち右各年分についても重加算税賦課決定のうち過少申告加算税額相当部分を越える部分を取り消した原判決には、通則法六八条一項の解釈適用の誤り、経験則違背及び審理不尽の各違法があり、かつ、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以上

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